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どうも、篠原です。 先日、風邪ひいた後に咳がなかなか良くならなくて、頭がぼーっとした感じ(ブレインフォグ)が取れませんでした。
手持ちのミノマイシン(抗生剤)を内服してみたところ、2−3日で咳が収まりました。
驚いたのが、頭のぼーっとした感じがみるみる霧が晴れるようになったのです。
ミノマイシンには、頭の霧が晴れるような作用があるのかと調べていたところ、脳の炎症を引き起こす、ミクログリアの活性化を抑制する働きがあることがわかりました。
ミクログリア(小膠細胞)は脳内にあって、炎症や免疫を司る細胞です。
”うつ”などの精神疾患では、ミクログリアの関与が言われていて、その活性化を抑制することで改善すると言われてきています。 ただし、ミノマイシンを長期に内服することは困難です。
最近、ミクログリアの活性化を抑制する栄養素として、LH(ロイシンーヒスチジン)ジペプチドが有用であるとの報告がなされました。
LHジペプチドは発酵食品に多く含まれており、それらを食べることが、”うつ”などの精神疾患に有用と考えられます。
今回は、ミクログリアの脳内における役割、”うつ”への関わり、その改善方法などをまとめてみたいと思います。
”うつ”の原因は
うつと言えば、落ち込んだ感じですよね。 診断は、DSMという診断基準で症状があてはまるかどうかで決まります。 血液検査や画像検査は関係なく、症状で診断するということです。
なので、”うつ”と言われているものの中には、多くの原因によるものが、混在していて、でも病名は一つの”うつ”だったりするわけです。 多くの原因があるにもかかわらず、西洋医学では”うつ”の原因を「セロトニン仮説」のみで説明しています。
「セロトニンは不安感をやわらげる物質だから、脳内のセロトニンが減ることで”うつ”になる」というわけです。
それで結局、SSRIという脳内のセロトニンの量を増やす薬を使うわけですが、症状改善したと判断されたのは、3割だけ、という研究もあります。
セロトニン仮説だけでは説明できないのは明らかです。 最近、脳内のセロトニンのような伝達物質を後ろで糸を引いている存在が”うつ”の原因ではないか、と言われています(1)。
その存在とは”炎症”です。
体内の慢性的な炎症が、常に脳にダメージを与えていて、それが”うつ”症状を引き起こすと考えられるようになってきたのです。
ミクログリアとは
脳には、血液中にあるような、白血球、リンパ球などの末梢免疫細胞が存在しません。 BBB(血液脳関門)があるために、脳内に免疫細胞が侵入できないのです(2)。
その代わりに、脳内で免疫作用を司っているのがミクログリア細胞(小膠細胞)です。 ミクログリアは、ストレスによって活性化することがわかってきています。
そして、ミクログリアが活性化すると、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNFαなど)を放出して、神経細胞に障害するようになります。
よって、ミクログリアが活性化すると、様々な病態に関連することがわかってきました。 うつ病(3)、自閉症(4)、心筋梗塞、かみあわせ、睡眠障害(5)、脳卒中などです。
ストレスが発生すると、HPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎皮質)が活性化、または交感神経系が活性化して、グルココルチコイド、アドレナリン、ノルアドレナリンが放出されるのですが、それがミクログリアに関与していることもわかってきました。
ミノマイシン(ミノサイクリン)のミクログリア活性化の抑制効果
ミノマイシン(ミノサイクリン)はテトラサイクリン系の抗生物質です。 抗生剤としての作用の他に、神経保護作用・抗炎症作用を有します。
ミノマイシンは、活性化したミクログリアの抑制する作用があります。
ミノマイシンを服用することにより、うつ病症状が改善し(6)、統合失調症が改善(7)した報告があります。
これらは、活性化したミクログリアを抑制することにより、ミクログリアからの炎症性サイトカインの放出を抑えて、症状が改善したと考えられます。
私も、脳に霧(ブレインフォグ)がかかった状況がミノマイシン内服によって晴れたのは、この機序が働いたものだと考えています。
ただし、ミノマイシンは抗生剤であり、基本的に長期内服ができません。なのでこの方法で”うつ”症状を長期的に改善させるのは実用的ではないでしょう。
LHジペプチドのミクログリア活性化の抑制効果
最近、LH(ロイシンーヒスチジン)ジペプチドがミクログリアの活性化を抑え、脳の炎症を抑制したとのマウスの実験が報告されました(8)。
この研究では、336種類のジペプチドを試し、その中でLHジペプチドが、脳の炎症を抑えることを発見しました。
ここで、ジペプチドとは、2つのアミノ酸が1つのペプチド結合で結合した分子です。
ちなみに、LHジペプチドが多く含まれている食品は、納豆や酒粕、青カビチーズなどがあります。
実験では、LPSという炎症を惹起する物質を脳脊髄液内に投与すると、炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β)が脳内から放出されます。 それによって、うつ様の行動が見られました。
LHジペプチドを投与すると、2時間後には脳に達して、炎症性サイトカインの放出が減少しました。 LHジペプチドはBBB(血液脳関門)を通過して、脳に入り、ミクログリアの活性化を抑え、炎症性サイトカインの放出を抑制したことが示されたのです。
さらに、この研究では社会的敗北ストレスを繰り返し与えて、うつ様・不安様行動を起こさせたマウスに対してもLHジペプチドはその様な行動を抑制させました。
発酵食品を含む食事と、うつが逆相関するという疫学的なデータもあります(9)。
LHジペプチドは食品に含まれるため、ミノマイシンと違って長期に摂取することができるため、うつの一つの対策になることが示唆されます。
まとめ
“うつ”は、単に「セロトニン仮説」のみで説明できるものではなく、多因子が影響していると考えられるようになってきました。 近年、脳の炎症がその根底にあるのではないかと示唆されるデータが出てきました。
脳のミクログリアの活性化が炎症性サイトカインの放出をきたして、神経細胞に障害を与えることにより、精神症状を引き起こすことがわかってきました。
ミノマイシンはミクログリアの活性化を抑制する効果を持っていて、うつを軽減させるが、長期的な使用は困難です。
LHジペプチドを多く含む食品を摂取することで、同様にミクログリアの活性化を抑制し、うつを抑制させる可能性が示されました。
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最後に(免責)
本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。 病態の改善に必要な食事はひとりひとり異なります。 基本的に、主治医に相談しながら進めていただければと思います。
参考文献
(1)「脳の炎症」を防げば、うつは治せる 最上悠 (2)ストレスによるミクログリア活性化メカニズムについての考察 洲鎌 秀永ら 日医大医会誌2019;15(3) (3)Torres-Platas SG, et al. : Evidence for increased microglial priming and macrophage recruitment in the dorsal anterior cingulated white matter of depressed suicides. Brain Behav Immun 2014; 42: 50―59. (4)Tetreault NA, et al. : Microglia in the cerebral cortex in autism. J Aut Development Disord 2012; 42: 2569―2584. (5)Huang CT, et al. : Sleep deprivation aggravates median verve injury-induced neuropathic pain and enhances microglial activation by suppressing melatonin secretion. Sleep 2014; 37: 1513―1523 (6)Liu H, et al.: Chronic minocycline treatment reduces the anxiety-like behaviors induced by repeated restraint stress through modulating neuroinflammation. Brain Res Bull 2018; 143: 19―26. (7)Levkovitz Y, et al: A double─blind, randomized study of minocycline for the treatment of negative and cognitive symptoms in early ─phase schizophrenia. J Clin Psychiatry, 71 :138─149. (8)Yasuhisa Ano, et al.: Leucine–Histidine Dipeptide Attenuates Microglial Activation and Emotional Disturbances Induced by Brain Inflammation and Repeated Social Defeat Stress (9)Cui, Y.; Huang, et al.: Consumption of low-fat dairy, but not whole-fat dairy, is inversely associated with depressive symptoms in Japanese adults. Soc. Psychiatry Psychiatr. Epidemiol. 2017, 52, 847–853.