分子栄養学

SIBOなのに低FODMAPだけでよくならない人へ——食事反応の個人差と腸内発酵を整理する4ステップ

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篠原 岳

東京原宿クリニック院長 医学博士・総合内科専門医・呼吸器内科指導医・アレルギー専門医・臨床分子栄養医学研究会指導認定医・キネシオロジスト・宮澤医院栄養外来担当 さまざまな不調を、分子栄養学と現代医療とキネシオロジーを合わせて改善させようとしている。 詳しいプロフィールはこちら

こんにちは、東京原宿クリニック 院長 篠原岳です。

「SIBOと言われたので、低FODMAPをずっと続けています」
「玉ねぎも小麦も豆も果物もやめました」
「でも、まだお腹が張るんです」

診察室で、こういうご相談を受けることがあります。

まず、短く結論からお伝えします。

SIBOが疑われるとき、低FODMAP食が役に立つ場面はあります。
でも、低FODMAPは「SIBOを治す食事」というより、発酵しやすい糖質による症状負荷を一時的に下げ、どの食品で反応するのかを整理するための道具です。

だから大切なのは、食べ物をどんどん減らすことではありません。

症状、便通、消化力、呼気検査、食事の反応を合わせて見ながら、食べられるものを少しずつ戻していくことです。

今回は、
「SIBOでもじゃがいもが食べられるなら、無理に外さなくてよい。反応は人によって違う」
という内容が注目されていました。

これは、臨床的にもとても大切な視点です。

SIBOは「この食品は全員ダメ」と決める病気ではありません。
玉ねぎで張る人もいれば、果物で張る人もいます。
逆に、少量の米やじゃがいもなら問題ない人もいます。

この記事では、SIBOと低FODMAPを怖がりすぎず、でも雑に扱わず、4つのステップで整理していきます。

SIBOとは何か

小腸で起きる「早すぎる発酵」

SIBOは、Small Intestinal Bacterial Overgrowthの略で、日本語では小腸内細菌異常増殖症と呼ばれます。

本来、小腸は食べ物を消化吸収する場所です。
大腸に比べると、細菌の量は少ない状態に保たれています。

ところが、胃酸の低下、腸の動きの低下、便秘、腹部手術歴、胆汁の流れ、PPIなどの薬剤、感染後の腸管運動低下などが重なると、小腸内で発酵が起こりやすくなることがあります。

イメージとしては、まだ大腸に届く前のベルトコンベア上で、食べ物が早めに発酵してしまう状態です。

小腸内発酵
→ 主に水素・メタンなどのガス
→ 近年は硫化水素に関連する病態も議論されている
→ 腹部膨満、腹鳴、げっぷ、便秘または下痢
→ 腸の動きがさらに乱れる
→ また発酵しやすくなる

このループが続くと、
「健康のために食物繊維を増やしたら、逆に張った」
「発酵食品やプロバイオティクスで悪化した」
ということが起こります。

SIBOは一種類ではない

ここがとても重要です。

SIBOは、単に「菌が多い」という一枚岩の状態ではありません。

呼気検査では、一般的には水素とメタンを見ます。
メタン優位の場合は、現在ではIMO、つまりintestinal methanogen overgrowthとして扱われることもあります。

水素が目立つ人では、下痢や急な張りが出ることがあります。
メタンが目立つ人では、便秘や腸の動きの低下が目立つことがあります。

ただし、呼気検査にも限界があります。

腸管通過時間の影響、偽陽性・偽陰性、検査法ごとの解釈差があります。
特にIBSのような症状だけで、すぐに「SIBOです」と決めることには慎重さが必要です。

だからこそ、SIBOを見るときは「検査ひとつで決める」のではなく、全体像を見ます。

– 食後どのくらいで張るのか

– 便秘優位か、下痢優位か

– げっぷ、逆流、胃もたれがあるか

– PPI、抗生物質、胃腸手術歴があるか

– 貧血、体重減少、血便、発熱などの警告症状がないか

– 呼気検査で水素・メタンのパターンがあるか

このように、症状と背景を重ねて見ていく必要があります。

「SIBOなら低FODMAP」の誤解

低FODMAPは一時的な道具です

低FODMAP食は、主にIBS症状に対して研究されてきた食事法です。
FODMAPとは、腸内で発酵しやすい糖質の総称です。

SIBOが疑われる方でも、発酵しやすい糖質を一時的に減らすことで、張りやガスが軽くなることがあります。
この使い方自体は、臨床的にも意味があります。

ただし、ここで誤解しないでください。

低FODMAPは、SIBOそのものを治す標準治療というより、症状を観察しながら食事反応を整理するための道具です。

低FODMAPの考え方は、本来は3段階です。

1. まず短期間だけ発酵しやすい食品を減らす

1. 症状が落ち着いたら食品群ごとに再導入する

1. 最終的に、自分が反応する食品だけを調整する

最初の「制限」だけを、何ヶ月も何年も続けるものではありません。

2022年のメタ解析では、低FODMAP食でBifidobacteriaが低下することが一貫して報告されました。
一方で、微生物多様性や短鎖脂肪酸などへの影響は一貫していませんでした。

つまり、「低FODMAPは腸に悪い」と単純化する必要はありません。
ただ、必要以上に長く厳格に続ける食事ではない、ということです。

じゃがいもが食べられるSIBOもあります

今回は、
「SIBOでもじゃがいもが食べられるなら、無理に外さなくてよい」
という視点です。

これはとても現実的です。

SIBOの方全員が、同じ食品に反応するわけではありません。

玉ねぎ、にんにく、小麦、豆類で強く張る人もいます。
果物やはちみつで張る人もいます。
でんぷんや食べる量で張る人もいます。
一方で、少量の米やじゃがいもは問題ない人もいます。

ここで大切なのは、「食べられるものがあるなら、それは悪いことではない」ということです。

食べられるものまで怖がって外していくと、栄養不足、体重減少、月経不調、低血糖、不安感が重なりやすくなります。

SIBO対策の目的は、食べ物を敵にすることではありません。
発酵の負荷を一時的に下げ、反応を見ながら、体が受け入れられる範囲を戻していくことです。

食事反応が人によって変わる理由

食品だけでなく「処理能力」で変わる

同じ食品を食べても、人によって反応が違うのはなぜでしょうか。

それは、食べ物そのものだけで決まらないからです。

食事内容
→ 胃酸・胆汁・膵酵素による前処理
→ 小腸の通過速度とMMC
→ 小腸内の菌・古細菌の構成
→ 水素・メタンなどの発酵産物
→ 張り、便秘、下痢、眠気、ブレインフォグ

この流れのどこで詰まっているかで、反応は変わります。

たとえば、同じじゃがいもでも、よく噛んで少量食べる人と、急いで大量に食べる人では反応が違います。

胃酸や胆汁が弱い人では、タンパク質や脂質の消化も乱れます。
未消化物が増えると、糖質だけでなく、タンパク質由来の腐敗発酵が増えやすくなることもあります。

だから、SIBOの食事療法は「食品リストを暗記すること」ではありません。
自分の消化力、腸の動き、便通、食べ方まで含めて、反応を整理することが本質です。

OATや便検査は「補助情報」です

機能性医学では、有機酸検査や便検査を補助情報として使うことがあります。

有機酸検査では、細菌関連マーカーや真菌関連マーカー、ミトコンドリア代謝、栄養素利用の傾向を見ることがあります。
便検査では、大腸側の菌叢、炎症、消化、免疫の傾向を確認することがあります。

ただし、ここは線引きが大切です。

OATやGI-MAPのような便検査は、SIBOを診断する標準検査ではありません。
結果だけで「SIBOです」「カンジダです」「除菌しましょう」と決めるものでもありません。

SIBOは小腸の問題です。
便検査は主に大腸側の情報です。

検査は地図の一部にはなりますが、地図そのものではありません。
症状、リスク因子、一般検査、必要に応じた呼気検査と合わせて、慎重に解釈します。

科学的根拠に基づくアプローチ

STEP 1:まず「SIBOらしさ」を症状だけで決めない

最初のステップは、食事制限ではありません。
まず評価です。

SIBOは、腹部膨満、ガス、腹痛、下痢、便秘、吸収不良などと関連することがあります。
ただし、これらの症状はIBS、炎症性腸疾患、セリアック病、婦人科疾患、胆汁酸性下痢、膵外分泌不全、便秘、薬剤性の不調などでも起こります。

特に、次のような症状がある場合は、SIBO対策より先に医療機関での評価が必要です。

– 体重減少

– 血便

– 発熱

– 貧血

– 夜間に目が覚めるほどの下痢

– 強い腹痛

– 新しく出てきた嚥下困難や嘔吐

呼気検査は、水素・メタンのパターンを見るうえで役立つことがあります。
一方で、検査だけで完全に白黒をつけるものではありません。

「症状だけで決めない」
「検査だけでも決めない」
この両方が大切です。

STEP 2:低FODMAPは2〜6週間の実験として使う

低FODMAPを使うなら、期限を決めます。

目安は2〜6週間です。
ここで見るのは、「一生避ける食品」ではなく、「反応しやすい食品群」です。

Week 1
玉ねぎ、にんにく、小麦、豆類、りんご、はちみつ、乳糖、糖アルコールなど、明らかに発酵しやすいものを一時的に整理します。

Week 2
症状日誌をつけます。
食後30分、1時間、2時間、翌朝の便通を記録します。

このとき、「何を食べたか」だけでなく、「量」「食べる速度」「一緒に食べた脂質やタンパク質」も見ます。

Week 3〜4
張りが落ち着くか、便通が変わるかを見ます。
この段階で全く変化がなければ、FODMAPだけが主因ではない可能性があります。

Week 5〜6
食品群ごとに再導入します。
ここが一番大切です。

玉ねぎはダメでも、少量の米やじゃがいもは大丈夫かもしれません。
果物の種類で反応が違うかもしれません。
乳糖はダメでも、別の乳製品なら少量いけるかもしれません。

低FODMAPのゴールは、「食べられないリスト」を完成させることではありません。
食べられるものを取り戻すことです。

STEP 3:消化力と腸の動きを整える

SIBOでは、食事だけを変えても、土台が変わらないと繰り返しやすくなります。

土台とは、胃酸、胆汁、膵酵素、MMC、便通、睡眠、ストレス反応です。

MMCは、空腹時に働く腸の自動清掃システムです。
だらだら食べが続くと、この清掃時間が減ります。

ただし、反応性低血糖がある方に、いきなり長時間の空腹を勧めるのは危険です。
血糖が落ちやすい人は、タンパク質・脂質・食物繊維の組み合わせや補食を調整しながら考えます。

消化力の面では、次のような点を見ます。

– 胃もたれ、げっぷ、早期満腹感

– 脂っこい食事で気持ち悪くなるか

– 便が浮く、油っぽい、悪臭が強いか

– 便中エラスターゼなど、必要に応じた膵外分泌評価

– 胆汁の流れを疑う所見

– ピロリ菌、萎縮性胃炎、PPI長期使用の有無

消化酵素、胆汁サポート、咀嚼、食べる量と速度の調整は、地味ですが重要です。

一方で、ベタインHClのように胃酸を補う素材は、誰にでも使うものではありません。
逆流性食道炎、胃潰瘍、Barrett食道、NSAIDs使用中などでは悪化リスクがあります。

自己判断ではなく、状態を確認してから検討します。

STEP 4:除菌より「再発しにくい腸」に戻す

SIBOが強く疑われ、症状や検査所見、背景因子を総合して必要と判断される場合には、医師の管理下で抗菌薬が検討されることがあります。

ただし、抗菌薬は「誰にでも必要な腸活」ではありません。
適応、副作用、耐性菌リスクを考えて慎重に使うものです。

ハーブ系抗菌やサプリメントも同じです。
ベルベリン、オレガノオイルなどが話題になることはありますが、SIBOの標準治療として一律に使うものではありません。

大切なのは、菌を減らすことだけではなく、なぜ小腸で発酵しやすくなったのかを見ることです。

機能性医学では、次のような順番で整理します。

1. Remove

過剰な発酵負荷、必要に応じて異常増殖菌、ピロリ菌、炎症などを評価します。
カンジダも補助的に検討されることはありますが、検査結果だけで断定しません。

1. Replace

胃酸、胆汁、膵酵素、咀嚼、食べる速度を整えます。
ここを飛ばすと、未消化物がまた菌のエサになります。

1. Reinoculate

プロバイオティクスやプレバイオティクスは、タイミングと種類が重要です。
小腸内発酵が強い時期に大量に入れるより、症状を見ながら少量から戻します。

1. Repair

腸管バリア、粘膜免疫、炎症、栄養状態を評価します。
亜鉛、ビタミンD、オメガ3、L-グルタミンなどは、不足や症状に応じて補助的に検討します。
これらはSIBOを直接治すものではなく、全身状態を整える選択肢の一つです。

1. Rebalance

睡眠、ストレス、血糖、運動、食間、便通を整えます。

ここまで整えて、ようやく「食べられるものを戻す」準備ができます。

まとめ

SIBOの食事療法で大切なのは、全部抜くことではありません。

整理すると、

– SIBOでは、小腸で早すぎる発酵が起こり、張り・ガス・便通異常につながることがあります

– 低FODMAPは、主にIBS症状で研究されてきた食事法で、SIBOでは症状整理の道具として使うことがあります

– 呼気検査は参考になりますが、偽陽性・偽陰性や通過時間の影響があり、単独で答えを出すものではありません

– OATや便検査は補助情報であり、SIBOの標準診断検査ではありません

– 食事、消化力、腸の動き、便通、睡眠、血糖を合わせて見ることで、食べられるものを戻す順番が見えてきます

「SIBOだから、これは一生食べてはいけない」と思い込む必要はありません。

食べ物を減らし続けるのではなく、体の反応を観察しながら、食べられる範囲を取り戻していく。

それが、機能性医学的なSIBOケアの本質です。

お腹の張りが続く方、低FODMAPを続けても改善しない方、プロバイオティクスで逆に悪化する方は、単なる食事制限ではなく、腸内発酵のタイプと消化機能を一度整理してみてください。

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この情報は医療・健康に関する情報提供を目的としたものです。
特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。
体調に関するご判断は必ず医療機関にご相談ください。

参考資料

AGA Clinical Practice Update on Small Intestinal Bacterial Overgrowth, 2020

Critical appraisal of the SIBO hypothesis and breath testing, Neurogastroenterology and Motility, 2024

Mayo Clinic: An updated appraisal of the SIBO hypothesis and the limits of breath testing, 2024

ACG Clinical Guideline: Management of Irritable Bowel Syndrome, 2021

Monash FODMAP: Practical tips for FODMAP Reintroduction

Monash FODMAP: Step 3 Personalisation

So et al., Effects of a low FODMAP diet on the colonic microbiome in IBS, AJCN, 2022

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(文責)東京原宿クリニック院長 篠原岳

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