分子栄養学

貧血じゃないのに疲れ・抜け毛が続く人へ——ヘモグロビン正常でも見落とされる『貯蔵鉄不足』と機能性医学的4ステップ

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篠原 岳

東京原宿クリニック院長 医学博士・総合内科専門医・呼吸器内科指導医・アレルギー専門医・臨床分子栄養医学研究会指導認定医・キネシオロジスト・宮澤医院栄養外来担当 さまざまな不調を、分子栄養学と現代医療とキネシオロジーを合わせて改善させようとしている。 詳しいプロフィールはこちら

貧血じゃないのに疲れ・抜け毛が続く人へ——ヘモグロビン正常でも見落とされる「貯蔵鉄不足」と機能性医学的4ステップ

はじめに

「貧血ではありません」で終わっていませんか

こんにちは、東京原宿クリニック 院長 篠原岳です。

「血液検査では貧血なしと言われました。でも、疲れが抜けません」

「寝ても回復しないし、髪の毛も増えるどころか抜けていきます」

このような相談は、外来でも少なくありません。

多くの方が見ているのは、ヘモグロビンです。ヘモグロビンは、赤血球の中で酸素を運ぶタンパク質です。ここが正常範囲であれば、一般的には「貧血ではない」と説明されます。

もちろん、それ自体は間違いではありません。ただし、ここで終わってしまうと、見落とされるものがあります。それが貯蔵鉄です。

鉄は、今日使う分だけが血液中にあるわけではありません。体は鉄をフェリチンという形で、肝臓、脾臓、骨髄などに蓄えています。私は患者さんに、フェリチンを「鉄の貯金」のように説明することがあります。

財布の中に今日の現金があるからといって、銀行口座に余裕があるとは限りません。

同じように、ヘモグロビンが正常でも、貯蔵鉄が減っていることがあります。ここが、非貧血性鉄欠乏で問題になる部分です。

鉄は酸素運搬だけの栄養素ではありません

鉄というと、多くの方は「貧血」「赤血球」「酸素」を思い浮かべます。しかし鉄は、ミトコンドリアでエネルギーを作る過程、神経伝達物質の合成、甲状腺ホルモンの働き、免疫、筋肉、毛髪の成長にも関わります。

そのため、鉄が足りないと、疲れやすい、朝から体が重い、階段で息が上がる、冷える、髪が抜ける、眠りが浅い、集中力が続かないといった形で、酸素不足だけでは説明しきれない広がり方をします。

このような症状は鉄欠乏だけで説明できるものではありません。睡眠、甲状腺、血糖、自律神経、炎症、薬剤、ストレスも関わります。

ただ、ヘモグロビンだけを見て「鉄は大丈夫」と判断すると、貯蔵鉄不足という重要なピースを見落とすことがあります。

2025年の研究が示したこと

2025年にBMC Women’s Healthに掲載された研究では、フェリチン30 μg/L未満の女性239人が解析されました。

この研究は、非貧血の女性だけを見たものではありません。鉄欠乏性貧血の方と、ヘモグロビンが保たれた非貧血性鉄欠乏の方の両方を含んでいます。

全体では、疲労82.4%、寒さを感じる71.6%、脱毛70.3%、睡眠問題66.5%などが高頻度でした。多くの症状は貧血群と非貧血群で大きくは変わらず、ヘモグロビンが正常でも不調が出る可能性が示唆されています。

ここで大切なのは、「フェリチンが低いから全ての症状の原因」と言い切ることではなく、ヘモグロビンだけでは見えない鉄不足があると理解することです。

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貯蔵鉄不足とは何か

フェリチンは「鉄の倉庫」を見る検査です

フェリチンは、体の中で鉄を保管しているタンパク質です。血液検査で測るフェリチンは、貯蔵鉄の目安になります。

フェリチン30 ng/mL未満は貯蔵鉄低下を示唆します。WHOのガイドラインでは、健康な成人では15 μg/L未満、感染や炎症がある成人では70 μg/L未満を判断に使うことがあります。

機能性医学では、症状がある方、月経量が多い方、妊娠を希望する方、慢性疲労や抜け毛がある方では、30〜50 ng/mL以上を一つの臨床目標として考えることがあります。

また、50〜100 ng/mLという目安が使われることもあります。

ただし、これは全員に一律で当てはめる標準診断基準ではありません

鉄は不足しても困りますが、多すぎても困る栄養素です。フェリチン、TSAT、CRP、肝機能、症状、月経、食事、薬剤、消化管の状態を合わせて見る必要があります。

TSATを見ると「使える鉄」が見えてきます

フェリチンが鉄の貯金だとすると、TSAT、つまりトランスフェリン飽和度は、今どれくらい鉄が運ばれて使える状態にあるかを見る指標です。

一方で、慢性炎症があるとフェリチンは上がることがあります。フェリチンは急性期反応物質でもあるため、炎症、感染、肝機能障害、飲酒、メタボリック症候群、慢性腎臓病などで高く見えることがあります。

つまり、フェリチンだけを見ると、鉄が十分あるように見えても、実際には使える鉄が不足していることがあります。

フェリチンは貯蔵、TSATは運搬と利用、CRPは炎症の影響を見る指標です。この3つを並べると、鉄の状態が立体的に見えてきます。

抜け毛はサインの一つですが、単独犯ではありません

抜け毛やびまん性脱毛では、低フェリチンが背景因子の一つになることがあります。

実際、フェリチン30 μg/L未満の女性を対象にした2025年の研究でも、脱毛は70.3%と高頻度に報告されています。

ただし、ここも慎重に見る必要があります。

脱毛の原因は、鉄だけではありません。甲状腺機能、亜鉛、ビタミンD、急激なダイエット、産後、感染後、薬剤、AGA、睡眠不足、ストレスなども関わります。

「フェリチンが低いから抜け毛の原因はこれです」と決めつけるより、低フェリチンは有力な一因として評価するくらいが正確です。

機能性医学の良さは、単独犯を探すことではありません。

鉄、亜鉛、甲状腺、血糖、腸、炎症、睡眠を、ひとつのカスケードとして見ることです。

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貯蔵鉄不足でよくある誤解

誤解1:ヘモグロビンが正常なら鉄は足りている

これは最も多い誤解です。

ヘモグロビンは、鉄欠乏の後半で下がってくることがあります。体は生命維持に重要な酸素運搬を守るため、まず貯蔵鉄を削りながらヘモグロビンを保とうとします。

たとえるなら、家計が赤字になっても、最初は貯金を取り崩して生活費を維持するようなものです。この段階で、疲労、冷え、集中力低下、睡眠の質低下、抜け毛が出る人がいます。

ですから、ヘモグロビンだけではなく、フェリチン、TSAT、血清鉄、TIBCまたはUIBC、CRPまで見ることが大切です。

誤解2:フェリチン50〜100を全員のゴールにすればよい

これも修正が必要です。

フェリチン30 ng/mL未満は、貯蔵鉄低下を強く示唆します。症状がある方では、30〜50 ng/mL以上を目標に考えることがあります。

一方で、50〜100 ng/mLは機能性医学で使われることがある目安であり、全員に一律適用する診断基準ではありません。

たとえば、炎症がある人ではフェリチンが高く見えることがあります。高値では、鉄過剰だけでなく、肝機能障害、飲酒、メタボリック症候群、慢性腎臓病なども考えます。

自己判断で鉄を増やすのも、怖がりすぎるのも避けたいところです。

誤解3:鉄と亜鉛はDMT1を奪い合う

鉄と亜鉛を一緒に飲むと吸収に干渉する可能性がある、という実務的な注意は残してよいです。

しかし、「鉄と亜鉛はDMT1という同じ入口を奪い合う」と説明するのは正確ではありません。

2004年のJournal of Nutritionのレビューでは、亜鉛はDMT1で輸送されるわけではなく、DMT1を鉄・亜鉛競合の主座と考えるのは難しいと整理されています。それでも、高用量の鉄サプリは亜鉛吸収を低下させ得るため注意が必要です。

実務上は、鉄と亜鉛を同時ではなく、2〜3時間以上、可能なら朝と夜に分ける方が無難です。「同時に詰め込みすぎない」と覚えてください。

誤解4:ビタミンCは鉄剤に必須

ビタミンCは非ヘム鉄の吸収を助けることがあります。植物性食品中心の方、胃酸が低い方では、ビタミンCを含む食品と一緒に摂る工夫は有用です。

一方で、鉄剤治療にビタミンCが必須とは限りません。2020年のJAMA Network Openのランダム化比較試験では、鉄単独と鉄+ビタミンCは、ヘモグロビン回復や鉄吸収の改善で同等と報告されています。

鉄補充では、理論上の吸収率よりも、継続できる形が大切です。

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科学的根拠に基づくアプローチ

STEP 1:まず「鉄の現在地」を測る

最初にやるべきことは、闇雲に鉄を増やすことではありません。

まず測ることです。

確認したい基本項目は、CBC、フェリチン、血清鉄、TIBCまたはUIBC、CRPです。

症状に応じて、亜鉛、銅、B12、葉酸、ビタミンD、TSH、FT3、FT4、肝機能、腎機能も確認します。

甲状腺については、TSHだけで十分とは限りません。疲労、冷え、抜け毛、むくみ、便秘が強い場合には、FT3、FT4、自己抗体も検討します。

ただし、「TSHは1.0でなければならない」といった言い方は強すぎます。診断名や治療方針は症状、検査、既往歴を合わせて判断します。

また、フェリチンが高い場合は、自己判断で鉄を追加しないでください。

フェリチン高値では、CRP、AST、ALT、γGTP、脂質、血糖、飲酒習慣、炎症性疾患の有無を一緒に見ます。

鉄は、少なすぎても多すぎても酸化ストレスに関わります。

STEP 2:補充は「量」より「続けられる形」

鉄不足が疑われる場合、食事では赤身肉、魚介、レバー、あさり、かつお、卵などを使います。

植物性の非ヘム鉄は吸収率が低めですが、ビタミンCを含む食品と合わせる、タンパク質を確保する、食後すぐのコーヒーや緑茶を避ける、といった工夫で吸収を助けられることがあります。

サプリメントを使う場合は、胃腸症状が大きな壁になります。便秘、吐き気、胃もたれ、腹痛が出ると、どんなに良い計画でも続きません。

近年は、ヘプシジンを考慮して、毎日高用量ではなく隔日投与を検討する考え方もあります。2017年のLancet Haematologyの研究では、鉄が不足した女性において、連日投与より隔日投与の方が鉄吸収の面で有利な可能性が示されました。

鉄と同時に避けたいものとしては、カルシウムサプリ、亜鉛サプリ、コーヒー、緑茶、乳製品などがあります。完全に禁止ではありませんが、鉄サプリと同じタイミングに詰め込まない方が無難です。

鉄と亜鉛を両方補う場合は、鉄を朝、亜鉛を夜などに分けると実行しやすいです。

STEP 3:上がらない原因を探す

鉄を飲んでいるのにフェリチンが上がらない。一度上がってもすぐ下がる。この場合、鉄の量だけを増やす前に、漏れている場所、吸収できない理由、炎症で使えない理由を探します。

代表的なのは、月経過多です。月経量が多い方では、毎月の出血で鉄の貯金が削られ続けます。子宮筋腫、子宮内膜症、過多月経が背景にある場合は、婦人科評価も重要です。

次に、消化管出血です。便潜血、胃カメラ、大腸カメラが必要になることがあります。中高年、体重減少、便通変化、黒色便、家族歴がある場合は、サプリだけに寄せないでください。

ピロリ菌も見落とせません。ピロリ菌感染は、慢性胃炎、胃酸分泌低下、鉄吸収の問題に関わることがあります。日本では若い世代ほど感染率が低下していますが、世代差が大きいため、胃症状、萎縮性胃炎、難治性の低フェリチンがある場合は評価を検討します。

セリアック病、炎症性腸疾患、胃切除後、PPIなど胃酸を抑える薬の長期使用、低胃酸、SIBOなども背景になります。

SIBOが疑われる場合は、腹部膨満、ガス、げっぷ、下痢・便秘、食後の張り、既往歴を見ながら、水素・メタン呼気検査などを検討します。

GI-MAPのような便PCR検査は、腸内環境や病原体、炎症、消化マーカーを見る補助情報として使うことがあります。ただし、SIBOは小腸の問題であり、便検査だけで診断するものではありません。

機能性医学の検査は便利な地図になります。しかし、地図は診断そのものではありません。症状、既往、通常検査、必要な内視鏡評価と合わせて使います。

STEP 4:8〜12週で再評価する

鉄の補充を始めたら、入れっぱなしにしないことが大切です。

症状、副作用、便通、月経、睡眠、食事内容を見ながら、8〜12週程度で再検査します。

見る項目は、Hb、フェリチン、CRPです。必要に応じて肝機能や亜鉛、銅、B12、葉酸も確認します。

「3か月飲んだら終わり」ではありません。なぜ低かったのか、補充で上がったのか、維持できるのか、炎症で見かけ上高くなっていないか。ここまで追うことで、鉄不足は「サプリを足す話」から「体全体の負荷を整える話」に変わります。

機能性医学的に見ると、鉄欠乏は単独の栄養不足ではなく、月経、胃酸、腸粘膜、ピロリ菌、SIBO、炎症、血糖、睡眠、ストレスがつながったカスケードの一部です。

鉄を入れる。吸収できる胃腸を整える。炎症で鉄を閉じ込めない。出血を見逃さない。この順番で見ていくことが大切です。

まとめ

「貧血なし」は「鉄不足なし」ではありません

ヘモグロビンが正常でも、フェリチンやTSATが低いことがあります。フェリチン30 ng/mL未満は貯蔵鉄低下を強く示唆しますが、50〜100 ng/mLを全員の診断基準として扱うのではなく、症状、炎症、月経、年齢、妊娠希望、背景疾患を見ながら個別に考えます。

– ヘモグロビン正常でも、貯蔵鉄不足は起こり得ます

– フェリチンだけでなく、CRP、血清鉄、TIBC/UIBCを合わせて見ます

– 抜け毛では低フェリチンに加え、甲状腺、亜鉛、ビタミンD、薬剤、産後、AGAなども評価します

– 鉄と亜鉛は高用量サプリでは時間を分ける方が無難ですが、DMT1を単純に奪い合う説明は正確ではありません

– ビタミンCは役立つことがありますが、鉄剤治療に必須とは限りません

– GI-MAPは腸内環境の補助情報であり、SIBOの標準診断検査ではありません

– 鉄を足しても上がらない場合は、月経過多、消化管出血、ピロリ菌、炎症、吸収不良を探します

不調があるのに「検査では異常なし」と言われると、自分の感じ方がおかしいのではないかと思ってしまう方がいます。でも、見ている検査項目が少ないだけ、ということがあります。

体は、正しい評価と介入に反応してくれる可能性があります。必要なのは、根性ではなく、見落としているピースを丁寧に拾うことです。

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免責事項

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この情報は医療・健康に関する情報提供を目的としたものです。
特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。
体調に関するご判断は必ず医療機関にご相談ください。

(文責)東京原宿クリニック院長 篠原岳

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