呼吸器内科

咳喘息では口呼吸をすぐにやめるべき

喘息の中で、咳がメインの症状のものを、「咳喘息」といいます。
咳喘息の病態は、基本的には喘息と同じで、
気道の炎症がおさまらないために起こると考えられています。

咳喘息の治療には、吸入ステロイドや気管支拡張薬を使いますが、
なかには薬が効きにくく、咳でつらい思いをしている方もいらっしゃるかと思います。
そういった方の中で、呼吸の仕方が「口呼吸」になっていることが多いのです。

口呼吸になると、のどの炎症である、「慢性上咽頭炎」を悪化させて、
さらに咳が治りにくくなります。
実際、口呼吸を鼻呼吸に治すことで、多くの咳喘息が改善されます。
この記事では、喘息において口呼吸がなぜいけないか、その対処法についてお話したいと思います。

なかなか良くならない咳喘息

咳喘息は、咳が主体の喘息です。
症状は、どちらかというと夜や朝に多い咳で、一般の咳止めが効きません。

その本態は、喘息と一緒で、気道の炎症です。

治療は、気道の炎症を抑えるために、吸入ステロイドをメインに使います。
気道の炎症が収まれば、よけいな気道の収縮がしなくなり、その結果、咳が収まるというわけです。
そして、咳喘息は、そのうち約30%が喘息に移行するとされているので、
その予防のためにも、吸入ステロイドの継続がすすめられています。

吸入ステロイドが効けば、症状がピタッとおさまる方もいます。
一方で、吸入ステロイドが全く効かない、
あるいはある程度は効くのですが、完全に治らないという方もよく目にします。

その理由の一つとして、知らないうちに気道の炎症を悪化させてしまうような
癖を自分がしてしまっている可能性があります。

その癖をやめることで、気道炎症を改善させて、
症状も改善することも多いのです。

その癖とは、口で呼吸をしてしまう「口呼吸」です。

知らない間になっている、口呼吸

もともと、口呼吸は人間が言葉を話すために獲得した機能です。
本来、呼吸は鼻でおこなうべきです。

鼻で呼吸していれば、いろいろと利点があります。主なものでは、

  • 鼻には、鼻毛が生えているので、空気中のホコリやチリ、細菌などをブロックしてくれます。
  • 乾燥した空気も鼻毛によって加湿されるので、気道が乾いて、刺激になってしまうこともありません。
  • 加湿とともに、加温もされるので体が冷えてしまうことも防げます。

では、利点ばかりの鼻呼吸をなぜ人間はしなくなってしまうのでしょうか。
その答えは、鼻で息を吸うよりも、口で息を吸うほうが楽なので、
ついつい口呼吸をしてしまうというわけです。

なぜ、口呼吸の方が楽かというと、鼻の方が穴が小さいので、
空気を吸うのに抵抗があるからです。

口呼吸になってしまう状況を考えてみましょう。

  • 一つは「疲れ」です。疲れていると、口の緊張がなくなり、半開きになってしまうのです。
  • 鼻が詰まっている場合、これは仕方なく口で呼吸してしまうことになります。
    特に、花粉症の季節はどうしても鼻が詰まってしまうので、口で息を吸わざるをえなくなります。
  • タバコを吸う方は口で吸いますから、どうしても口呼吸になります。
  • 運動をする時には、最初は鼻呼吸でも最後には息が上がりますから、
    口呼吸になってしまいがちです。
  • 職業柄、マスクをしている方も多いと思います。
    私もそうなのですが、感染を防ごうとしてマスクをしているがために、
    マスクをしていると空気抵抗が大きくなるので、どうしても口で呼吸したくなります。

先日、歯科衛生士さんも、仕事中にマスクをしているため、
口呼吸になっていた方がいらっしゃいました。

口呼吸の恐怖

では口呼吸のデメリットとは何でしょうか。
先日、とある先輩医師よりある本を紹介していただきました。
養生訓」という江戸時代に活躍した儒学者の貝原益軒の書かれた健康書です(1)。
貝原益軒は、本草学者でもあり、膨大な知識をまとめて
健康に生きるための指南書として現在でも読まれているのです。

そこには、

「千金方に常に鼻より清気を引入れ 口より濁気を吐出す 
入る事多く出す事すくなくす 出す時は口をほそくひらきて少吐くべし」

とあります。
江戸時代から、健康のためには、
常に鼻より空気を吸うようにと言うことがもうすでに言われているのです!

口呼吸では、鼻呼吸の逆のことが起きてしまいます。主なものでは、

  • ほこりやウイルス、細菌が直接のどに入り込んでしまいます。
  • 口呼吸では、冷たい外気がそのまま入るので、体が冷えてしまいます。
  • 「上咽頭」という場所を直接刺激してしまうため、
    上咽頭の炎症を悪化させて、「慢性上咽頭炎」がなかなか治らなくなってしまいます。

ここで、「慢性上咽頭炎」という言葉が出てきましたが、
最近は、慢性上咽頭炎が様々な治りにくい病気の一つの
原因となっているということで、見直されてきています。

咳喘息と慢性上咽頭炎との関係も言われているので、ここで紹介します。

慢性上咽頭炎とは何か?

まず、上咽頭とは、どこにあるのでしょうか。
左右の鼻から空気を吸った時に、息が合流した部分から、
その下の中咽頭につながるまでを上咽頭といいます。

ここの部分に慢性的に炎症が起きると、
「慢性上咽頭炎」と言って、その部分の症状(のどが痛い)だけでなく、
全身の不調につながります。

全身の不調とは例えば、肩こり、頭痛、めまい、腎炎、慢性疲労感など、
のどと関係なさそうな場所の症状と関連しています。
とても不思議なのですが、事実なのです。

慢性上咽頭炎の概念は、約50年前に日本で注目されました。
その時に、活躍されたのが、耳鼻科医の山崎春三先生と、堀口申作先生です。
慢性上咽頭炎を治療すると、様々な治りにくい症状が良くなるということが
報告されていたのですが、医学的にどうして良くなるのかの説明が難しかったこともあり、
次第に忘れ去られてしまいました。

したがって、私が医師国家試験を受験する時に、
慢性上咽頭炎の講義は無く、その当時は存在を知りませんでした。

現在、耳鼻科医の中でも存在を知っている医師は少ないです。
試しに、慢性上咽頭炎の論文を英語で検索しても、
論文数もとても少なく、そのほとんどが日本からの報告ばかりです。

そのほとんど知られていない慢性上咽頭炎が、
慢性疲労などの根本原因になっている可能性が
クローズアップされてきて、最近注目されてきました。

内科医の堀田修先生のご尽力により、
原因不明の不調の病巣疾患としての慢性上咽頭炎が広められています(2, 3)。

慢性上咽頭炎が体のあちこちの離れたところの病気の原因のなっていることは
とても興味深いのですが、今回は、咳との関連にしぼってお話したいと思います。

咳喘息が、なかなか治りにくい原因の一つとして、
「後鼻漏(こうびろう)」の合併があります。
後鼻漏とは、鼻汁が鼻の奥から喉を伝って降りてくることを言います。
後鼻漏があると、いつも鼻汁が喉を刺激するので、
咳喘息と診断されている方でも、吸入ステロイドで治療してもなかなか治らないのです。

後鼻漏は、副鼻腔というところに炎症があると起きることもあれば、
アレルギー性鼻炎などで起きる場合もあります。

この場合、耳鼻科医による診察で原因が突き止められれば、
後鼻漏に対する治療をすることで、喉への刺激がなくなり、咳が良くなります。

しかしながら、慢性上咽頭炎が原因となって、
後鼻漏が起きていることもあって、その場合は、簡単にはいきません。

なぜなら、慢性上咽頭炎は、一見して粘膜が正常に見えるため、
内視鏡でのぞいただけではわからないから、「正常です」となってしまうのです。
実際には、綿棒で上咽頭をこすってみないとわかりません。
こすることで、炎症があることがわかれば、慢性上咽頭炎になっているということなのです。

そして、慢性上咽頭炎を改善させると、
それが原因の後鼻漏も改善して、咳も良くなります。

また、風邪をひいたことがきっかけになって咳喘息と診断された場合も、
治療を受けても良くならないことがあります。

その場合、風邪によって、急性の上咽頭炎が起きて、
それが慢性化して残っている可能性があります。
この場合も、慢性所咽頭炎の治療で咳が改善します。

さらに、喘息は自律神経との関係も深いです。
近年、自律神経を刺激する装置(VNS)を使用することで、
喘息の急性増悪を和らげたとの報告があります(4)。

上咽頭の付近には、自律神経が豊富なため、
慢性上咽頭炎を改善させることで、喘息も改善するとも考えられます。

以上より咳喘息にとって、慢性上咽頭炎があることは、とてもマイナスなのです。

慢性上咽頭炎の診断法は?

慢性上咽頭炎は、耳鼻科医に上咽頭を覗いてもらい、
綿棒で刺激することで診断されます。

やはり問題点は、慢性上咽頭炎という概念が
一般の耳鼻科医に知られていないことです。

ですので、正確な診断となると、この本にある慢性上咽頭炎を
診療している耳鼻科の一覧を参考にして、受診されるのが一番です(3)。

そして、診断されたら、EAT(イート)療法という
上咽頭擦過治療を行うことで症状を改善させることができます。

具体的には、塩化亜鉛溶液をしみこませた綿棒を使って、
鼻とのどから直接上咽頭にこすりつけます。

デメリットは、とても痛い!ことです。
特に、炎症のある人はとても痛いです。
しかし、効き目はその分あります。

慢性上咽頭炎の診療をしてくれる施設が、近くに無い場合、
自分である程度対処をすることもできます。

自分でできる慢性上咽頭炎の改善法

まずは、慢性上咽頭炎を悪化させる習慣をやめることです。
それは、喫煙です。
たばこを吸っている時には自動的に口呼吸になっていますから、
当然悪化させてしまいます。

それ以外にも、自分でできる対策法をあげます。

上咽頭を生理食塩水で洗浄する

鼻に水を入れると、痛いのではないか、と心配になります。
しかし、浸透圧が人体と一緒のものを使えば、痛くないのです。
一番お手軽なのは、0.9%の生理食塩水を自作することです。

鼻に入れるものですから、無菌のものがいいです。
500mlの水を沸騰させ、ぬるま湯になってから、4.5gの食塩を入れます。
これで、できあがり。
あとは、ノズルのついたプラスチック容器に入れて、鼻うがいをしましょう。

鼻うがいキットを用いて、鼻うがいを行う

上記の様に、自分で生理食塩水やボトルを容易するのが難しい方は、
最初からセットになっているキットを利用するのも手です。
上咽頭の洗浄だけでなく、鼻腔全体を洗い流してくれます。
私はこれを使用しておりますが、ほとんど痛みを感じません。

青梅抽出液(MK615:商品名;ミサトール)を用いて洗浄する

青梅の抽出液を用いて鼻うがいをすると、
抗炎症効果があることが基礎研究や、臨床研究で報告されています(5)。
通常、これを用いて鼻うがいをしても痛くありませんが、炎症のある時などはしみます。

医療機関でのみの取扱ですが、私はこれをすることで、
のどの奥がとてもすーすーとした気持ちのいい感触を味わっています。
これは、上咽頭の炎症を抑えるのにとても効果があります。

口呼吸を鼻呼吸にもどす

口呼吸は、先程お話した様に、それ自体で万病の元です。
当然、咳喘息にとっても、口から入ってきた空気が
直接気道を刺激するので、とてもマイナスになります。

また、口呼吸は慢性上咽頭炎の悪化の原因にもなります。

ということは、鼻呼吸にすれば良い、ということになります。
ただし、普段、口呼吸に自然となっている方は、
口の周りや舌が緩んでしまっているため、すぐにだらりと口が開いてしまいます。

みらいクリニックの今井一彰先生がご考案された、
「あいうべ体操」を毎日行うことで、口や舌の筋肉が鍛えられて、
自然と口が閉じれるようになります(6)。

口呼吸をやめることで、空気中の有害物質が直接気道に入ることがなくなり、
気管が過剰に反応しなくなります。

あいうべ体操のやり方

(今井一彰先生にご許可頂いて、転載させていただきました。)

真剣にやると疲れるのと、人目が気になるということもあるので、
入浴時にやると効果的です。


寝ている時に口テープを貼って、口呼吸にならないようにする。

あいうべ体操でトレーニングしていくと、自然と口が閉じるようになりますが、
どうしても、寝ている時には口が開いてしまい、口呼吸になってしまうものです。
朝起きた時に、喉がヒリヒリするような感覚があるようなら、
それは夜に口呼吸になっているサインです。

そんな時におすすめなのは、口にテープを貼って、寝ることです。
とても簡単な方法なのですが、効果は絶大。
私は朝起きたときの喉のヒリヒリ感がなくなりました。

口テープの商品例
優肌絆

まとめ

咳喘息において、気道の炎症を止める吸入ステロイドは確かに効果もあり必要です。
しかし、炎症を悪化させるような習慣も同時にやめていかないと、
咳喘息は良くならないことも多いです。
その方法とは、口呼吸をやめて、慢性上咽頭炎を改善させることです。
なかなか良くならない咳に対して、参考になれば幸いです。

最後に(免責)

本記事の内容は、医学的治療に置き換わるものではありません。
個人的にお試しになり健康被害が生じても、当院では一切責任を負えませんのでご了承下さい。
病態の改善に必要な食事はひとりひとり異なります。
基本的に、主治医に相談しながら進めていただければと思います。

参考文献

(1) [新釈]養生訓 貝原益軒、蓮村誠(編訳)
(2) 内科疾患における上咽頭処置の重要性: 今、またブレークスルーの予感
堀田修ら, 口咽科2016 ; 29(1):99 ~ 106
(3) つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい 堀田修(著)
(4)Feasibility of percutaneous vagus 
nerve stimulation for the treatment 
of acute asthma exacerbations.
Miner JR, Lewis LM, Mosnaim GS, Varon J, Theodoro D, Hoffmann TJ.
Acad Emerg Med. 2012 Apr;19(4):421-9. 
(5)IgA nephropathy and psoriatic 
arthritis that improved with steroid 
pulse therapy and mizoribine in 
combination with treatment 
for chronic tonsillitis and epipharyngitis.
Kaneko T, Mii A, Fukui M, Nagahama K, Shimizu A, Tsuruoka S.
Intern Med. 2015;54(9):1085-90.
(6)あいうべ体操と口テープが病気を治す! 鼻呼吸なら薬はいらない 今井 一彰  (著)

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