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「パニック発作だと思っていたら、血糖値の問題だったかもしれない」——動悸・不安と血糖変動を見極める機能性医学的4ステップ
X短文ポスト
突然の動悸、冷や汗、震え、強い不安。パニック発作に似た症状の一部には、食後の血糖変動と、それを戻そうとするアドレナリン反応が重なることがあります。ただし、症状だけで低血糖とは診断できません。心のケアと身体の評価を対立させず、食事・症状・実測値を一緒に見ることが大切です。詳細はアーティクルで。より深い臨床メモはSubstack「分子の処方箋」でも。
はじめに
「突然、何かが起きそうになる」
こんにちは、東京原宿クリニック 院長 篠原岳です。
会議中や電車の中で、突然胸がどきどきする。手が震え、冷や汗が出て、息が浅くなる。「このまま倒れるのではないか」「何か恐ろしいことが起きるのではないか」と、強い不安に襲われる。
こうした経験から、「パニック発作かもしれない」と受診される方がいます。実際、パニック障害では、動悸、発汗、震え、息苦しさ、めまい、強い恐怖感などが急に現れます。認知行動療法やSSRIなど、効果が確立している治療もあります。
一方、診察室で時間をかけてお話を聞くと、症状が出るのはいつも朝食を抜いた日の昼前、甘いものを食べた数時間後、空腹でコーヒーを何杯も飲んだ夕方だった、ということがあります。食べると少し楽になる方もいます。
このような場合、心理的な要因だけでなく、食後の血糖変動や、それに対する体のストレス反応が重なっていないかを確認する価値があります。
ただし、ここで「パニック発作の正体は低血糖だ」と置き換えてしまうのも正確ではありません。動悸や不安は、不整脈、甲状腺機能亢進症、貧血、薬剤、カフェイン、睡眠不足、アルコール、パニック障害など、さまざまな原因で起こります。
大切なのは、心の問題か、体の問題かという二択にしないことです。症状が起きる時間、食事との関係、実際の血糖、睡眠や服薬まで一緒に見ていく。これが、機能性医学の良いところだと私は考えています。
血糖が下がると、なぜパニック発作に似た症状が出るのか
体が鳴らす「非常ベル」
血糖が下がると、体は脳へのエネルギー供給を守るために反応します。インスリン分泌を抑え、グルカゴンやアドレナリンなどを動員して、血糖を元に戻そうとします。
このときに出やすいのが、動悸、震え、発汗、空腹感、不安感です。血糖がさらに低くなれば、ぼんやりする、集中できない、力が入らないといった症状につながることもあります。
つまり、症状の一部は血糖値そのものだけでなく、血糖を立て直そうとするアドレナリン反応によって生じます。火事がなくても、煙を感知した警報器が大きな音を出すようなものです。体が危険を避けるために鳴らす非常ベルが、本人には強い不安や恐怖として感じられることがあります。
58±2mg/dLは「全員の境界線」ではない
1991年に健常者10人を対象として行われた高インスリン血糖クランプ試験では、自律神経症状が平均58±2mg/dLで始まりました。
ただし、これは人工的に血糖を段階的に下げた小規模研究の平均値です。症状が出る血糖値は、低血糖の既往、糖尿病の有無、年齢、血糖が下がる速さなどによって変わります。58mg/dLという数字を、全員に共通する診断線として使うことはできません。
同じ数値でも何も感じない方がいれば、急激な低下の途中で強い症状を感じる方もいます。だからこそ、数字だけでも、症状だけでも決めず、両者が同じ時間に重なっているかを確かめます。
「機能性低血糖」という言葉をどう考えるか
機能性医学や分子栄養学の領域では、食後の急な眠気や動悸、不安、甘いものへの欲求を含めて「機能性低血糖」と表現することがあります。一般の方には分かりやすい言葉ですが、標準医学で一つに定まった診断名ではありません。
実際に低い血糖が確認される食後低血糖・反応性低血糖と、似た症状があっても低血糖が確認されない食後症候群は分けて考える必要があります。
医学的に低血糖症を評価するときの基本は、Whippleの3徴です。
1. 低血糖に合う症状がある
2. 症状があるとき、信頼できる方法で低い血糖が確認される
3. 血糖を上げると症状が改善する
「甘いものを食べると楽になる」だけでは証明になりません。安心感や休息でも症状は軽くなることがあるからです。症状と実測値を丁寧に重ねることが出発点になります。
腸は関係するのか
腸内細菌叢と糖代謝の関係は研究されています。また、胃腸症状が強い方では、食事量が不安定になったり、吸収の速度が変わったり、食べられるものが偏ったりすることで、血糖の波に影響する可能性があります。
しかし、腸内環境の乱れがパニック発作や食後低血糖を直接引き起こすとまでは言えません。SIBO、便通異常、強い腹部膨満などがある場合には、血糖とは別の背景因子として評価します。
腸を無視しないことは大切です。ただし「腸が主犯」と最初から決めるのではなく、食事、睡眠、薬剤、内分泌、循環器、心理面を並べて見る。この順序が重要です。

よくある4つの誤解
誤解1:「症状が似ているから、低血糖に違いない」
動悸、震え、発汗、不安は低血糖でも起こりますが、どれも原因を一つに絞れない症状です。胸痛、失神、強い息苦しさを伴う場合は、血糖のセルフチェックより先に、緊急性のある心疾患などを除外しなければなりません。
食事と関係なく発作が起こる、発作への恐怖から外出できない、予期不安が続く場合には、パニック障害としての評価も大切です。「身体の問題を調べること」と「心の治療を受けること」は、どちらか一方を選ぶ話ではありません。
誤解2:「抗不安薬は対症療法だから意味がない」
これは正しくありません。パニック障害に対する認知行動療法やSSRIなどは、確立された治療選択肢です。必要な治療を自己判断で中断すると、症状や生活機能が悪化することがあります。
一方で、低血糖が疑われる時間帯や食事パターンがあるなら、心理的要因だけに限定せず、身体的要因も確認します。標準治療を続けながら、血糖の可能性も調べる。この二本立てが現実的です。
誤解3:「CGMで低い数字が出たから診断確定」
CGMは、血液ではなく皮下の間質液グルコースを測っています。食事、運動、睡眠、症状とグルコース変動の時間的な関係を見るには便利ですが、血糖が急に変わるときには時間差が生じます。低値域では誤差が大きくなり、睡眠中にセンサーを圧迫すると、実際には低くないのに低値が表示されることもあります。
CGMで低値が出たときは、可能であれば症状時に指先の血糖で再確認します。正式な低血糖症の診断には、信頼できる方法で測定した血漿グルコースが必要です。CGMは答えそのものではなく、いつ何を確かめるかを教える地図として使います。
誤解4:「糖質を徹底的に抜けば安定する」
甘い飲料や精製糖質を単独で大量に摂る習慣は、見直す価値があります。しかし、全員が厳格な糖質制限を必要とするわけではありません。
活動量が多い方、食事量が少ない方、やせている方では、極端な制限がエネルギー不足や継続困難につながることがあります。症状を怖がるあまり食べられるものを減らし続けると、かえって日常生活が苦しくなります。
目標は糖質を敵にすることではなく、量、質、組み合わせ、タイミングを自分の反応に合わせることです。

科学的根拠に基づくアプローチ
STEP 1:まず、危険な病気と別の原因を見逃さない
最初に確認したいのは、「本当に血糖だけの問題か」です。
胸痛、失神、強い呼吸困難、意識の変化、けいれんを伴う場合は、早急な医療評価が必要です。動悸では不整脈、甲状腺機能亢進症、貧血、薬剤やサプリ、カフェインの過剰摂取なども確認します。糖尿病治療薬を使っている方の低血糖は、自己流で食事を変える前に処方医へ相談してください。
パニック発作が疑われる場合には、発作の頻度、予期不安、回避行動、生活への影響も評価します。血糖を調べることを理由に、認知行動療法や薬物療法を止める必要はありません。
まずは、時刻、直前の食事、飲み物、カフェイン、睡眠、月経周期、症状の内容、食べた後にどう変わったかを記録します。この日誌だけでも、「昼食後に限る」「空腹のコーヒー後に多い」「食事とは無関係」といった重要な違いが見えてきます。
STEP 2:症状とグルコース変動の時間を重ねる
症状時の血糖を確認できることが理想です。家庭用血糖測定器やCGMは手がかりになりますが、診断を確定する機器ではありません。CGMで症状と同時に低値が表示された場合は、可能であれば指先血糖で再確認し、繰り返す場合は医療機関で相談します。
自然な発作を捉えられず、食後低血糖が強く疑われる場合には、医療機関で混合食試験などが検討されることがあります。自己判断で長時間の絶食や糖負荷を行うのは避けてください。
HbA1c、空腹時血糖、空腹時インスリン、脂質、肝機能は、背景にある代謝状態を見る参考になります。ただし、HOMA-IRの基準は年齢、体格、民族、検査法によって異なり、食後低血糖を直接診断するものではありません。「HOMA-IRが一定値を超えたら機能的低血糖」という使い方はしません。
STEP 3:血糖の急な上下を起こしにくい食べ方へ
基本は、精製糖質だけを空腹時に大量に摂らないことです。炭水化物を、魚、肉、卵、豆腐などのタンパク質、適量の脂質、食物繊維と組み合わせます。
野菜やタンパク質を先に、炭水化物を後に食べる方法は、小規模研究で食後血糖やインスリン上昇を緩やかにする可能性が示されています。ただし、効果の大きさは食事内容や体質で異なります。胃腸が弱く、野菜だけで満腹になる方に無理な「ベジファースト」を強いる必要はありません。
一度に多く食べると症状が出る方では、一回量を小さくする方法があります。反対に、間食を増やすほど甘いものが続いてしまう方もいます。1日3食や数時間ごとの補食を全員のルールにせず、症状と実測したパターンをもとに調整します。
実際の低血糖が確認され、強い症状が出ているときの糖補給は応急対応として重要です。ただし、日常的に不安を感じるたびに甘いものを摂ると、原因の確認が難しくなります。緊急時の是正と、日頃の予防は分けて考えることが大切です。
STEP 4:睡眠・刺激物・腸症状まで「総負荷」で見る
睡眠不足、慢性的なストレス、空腹時のカフェイン、飲酒、激しい運動の後は、動悸や不安を感じやすくなることがあります。食事だけを完璧にしても、睡眠が崩れ、コーヒーで一日をつなぎ、仕事の緊張が続いていれば、体の非常ベルは鳴りやすいままです。
まず、起床と就寝の時刻を大きくずらさない、空腹時のカフェインを減らす、飲酒後の症状を記録する、体調に合わせて軽い運動を続ける、といった土台を整えます。呼吸法や認知行動療法は、血糖とは別の話ではありません。症状に対する恐怖と交感神経の高まりを和らげる大切な方法です。
腹部膨満、便通異常、食後の胃腸症状が強い場合には、消化管の背景も確認します。当院では症状に応じてGI-MAPや有機酸検査を補助的に用いることがありますが、これらだけで食後低血糖やSIBOを確定するものではありません。一般検査や食事・症状の経過と組み合わせて解釈します。
サプリメントも「血糖を下げるもの」をまとめて使えばよいわけではありません。とくにαリポ酸は、遺伝的素因のある方でインスリン自己免疫症候群を誘発し、重い食後低血糖につながる報告があります。低血糖様症状がある方が自己判断で使うべき成分ではありません。サプリを検討する場合も、原因、服薬、肝腎機能、実際の血糖パターンを確認して個別に判断します。

まとめ
突然の動悸、震え、冷や汗、強い不安は、パニック発作でも、低血糖でも、ほかの身体疾患でも起こり得ます。症状が似ているからこそ、どれか一つに早く決めるより、起きた時間と食事、実測値、生活背景を重ねて見ることが大切です。
今日の要点をまとめます。
– 低血糖では、血糖を戻すアドレナリン反応が動悸や不安として現れることがある
– 健常者10人の古典的研究では平均58±2mg/dLで自律神経症状が始まったが、全員の診断閾値ではない
– 医学的な低血糖評価の基本は、症状、実際の低血糖、是正による改善というWhippleの3徴
– CGMは食事や症状との関係を見る補助ツールであり、表示された低値だけで診断しない
– パニック障害の標準治療と、血糖や身体要因の評価は両立できる
– 食事は糖質を一律に排除せず、タンパク質、脂質、食物繊維との組み合わせと量を個別に調整する
あなたの症状は、意志が弱いからでも、考えすぎだからでもありません。体の警報反応と不安の回路が重なっているなら、どちらにも手を打てます。
食事を極端に変えたり、処方薬を中断したり、血糖を下げるサプリを自己判断で始めたりする前に、まず症状の記録から始めてください。失神、胸痛、意識の変化を伴う場合や、発作で生活が大きく制限されている場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
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特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。
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※本プログラムは医療行為、診断、治療、または症状の改善を目的としたものではありません。
(文責)東京原宿クリニック院長 篠原岳











