分子栄養学

血液検査で「正常」でも安心しきれない。マグネシウムと脳の健康を考える4ステップ

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篠原 岳

東京原宿クリニック院長 医学博士・総合内科専門医・呼吸器内科指導医・アレルギー専門医・臨床分子栄養医学研究会指導認定医・キネシオロジスト・宮澤医院栄養外来担当 さまざまな不調を、分子栄養学と現代医療とキネシオロジーを合わせて改善させようとしている。 詳しいプロフィールはこちら

こんにちは、東京原宿クリニック 院長 篠原岳です。

人の名前が、喉まで出かかっているのに出てこない。

同じメールを何度も読み返す。

以前なら30分で終わった仕事に、妙に時間がかかる。

そんな変化があっても、血液検査は「正常」。すると、年齢のせいだろうと片づけたくなります。検査が正常なのですから、そう考えるのは自然です。

ただ、少し引っかかります。

正常という結果は、いま調べた項目に大きな異常が見つからなかったという意味です。疲れや物忘れの原因が何もない、と保証する言葉ではありません。

では、血液検査で見えにくいマグネシウム不足が、脳の中で進んでいるのでしょうか。

話は、そこまで単純でもありません。

私もマグネシウムについて学び始めた頃は、血液中にある量がごくわずかなら、血清値だけでは不足を見逃すのだろうと考えていました。これは半分は正しい。けれども残り半分には注意が要ります。血清値だけで体内全体を語れないからといって、脳の中だけが不足していると診断できるわけではないからです。

マグネシウムは、神経の情報伝達やエネルギー産生を支える大切なミネラルです。だからこそ、万能の説明にしてはいけません。

物忘れ、睡眠、食事、薬、腎機能、血圧、血糖。これらを一緒に見たとき、マグネシウムの位置がようやく見えてきます。

マグネシウムは脳で何をしているのか

脳はかなりのエネルギーを使う

マグネシウムは、体内にある300種類以上の酵素反応を支えています。ATPを使ったエネルギー産生、筋肉の収縮、神経の情報伝達、血糖や血圧の調節。仕事はずいぶん幅広い。

脳は体全体から見れば小さな臓器ですが、休んでいるように見えるときも多くのエネルギーを使っています。ぼんやりしている時間でさえ、脳内では情報の整理が続いています。

そのエネルギー産生にマグネシウムが関わる以上、脳の健康と無関係ではありません。

とはいえ、マグネシウムが足りないから脳が老ける、と一息で結ぶのは早すぎます。関係があることと、単独の原因であることは別です。

神経の興奮を調節する仕組み

もう一つ、脳との関係で知られているのがNMDA受容体です。

NMDA受容体は、学習や記憶に必要な神経信号を通します。アクセルのような役割ですが、踏み込めばよいというものでもありません。刺激が強すぎる状態が続くと、神経細胞には負担になります。

マグネシウムは平常時、この受容体のチャネルをふさぎ、必要な条件がそろったときに信号が通るよう調節しています。

神経を黙らせる栄養素ではありません。必要な興奮と、行き過ぎた興奮のあいだを支える存在です。

この仕組みは、マグネシウムと脳を考える生物学的な理由になります。しかし、ここから認知症の予防効果までを直接導くことはできません。

マグネシウムが神経とエネルギーを支える仕組み

ANU研究が実際に調べたもの

研究結果は、ときどき見出しの段階で別の話に変わってしまいます。

2023年にEuropean Journal of Nutritionに掲載されたAustralian National Universityの研究は、その読み分けが必要な例です。

研究には、UK Biobankに参加した40歳から73歳までの男女6,001人が含まれました。研究者が調べたのは、食事記録から推定したマグネシウム摂取量と、MRIで測った脳容積や白質病変との関連です。

食事からのマグネシウム摂取量が多いことは、一部の脳容積が大きいことや、白質病変が少ないことと関連していました。

興味深い結果です。ただし、この研究は脳内マグネシウム濃度を測っていません。認知症の発症率も、サプリメントの予防効果も調べていません。

観察研究で見つかったのは関連です。食生活が整っている人には、運動、睡眠、所得、ほかの栄養素など、マグネシウム以外の違いもあり得ます。

残るのは、地味ですが役に立つ結論です。豆、海藻、全粒穀物、野菜、ナッツなどを含む食事は、脳を含めた健康を支える可能性がある。サプリで認知症を防げる、という話ではありません。

血液検査の正常値をどう読むか

血清値は大切だが、全身の縮図ではない

体内のマグネシウムの多くは、骨や細胞の中にあります。血液中にあるのはごく一部です。

それでも、血清マグネシウムは基本の検査です。明らかな低値や高値は見逃せませんし、腎機能や薬の影響を考える手がかりにもなります。

問題は、正常値をどこまで広げて解釈するかです。

米国NIHは、血清値が体内全体や特定の組織の状態を正確に反映するとは限らず、マグネシウムの状態を一つの検査だけで十分に評価する方法はないと説明しています。

したがって、血清値が正常でも不足を完全には否定できません。反対に、正常値を根拠として隠れた脳内不足があるとも言えません。

この二つは似ているようで、まったく違います。

血清マグネシウム正常をどう読むか

物忘れには別の入口もある

物忘れや集中力低下は、マグネシウム不足に特有の症状ではありません。

睡眠不足、うつ、不安、甲状腺機能の変化、ビタミンB12や葉酸の不足、貧血、血糖の乱れ、薬の副作用、聴力低下、睡眠時無呼吸でも似た変化が起こります。

急に言葉が出なくなった、片側の手足が動かしにくい、激しい頭痛がある。こうした場合は栄養を考える順番ではなく、すぐに医療機関で評価を受ける必要があります。

ゆっくり進む変化でも、生活に支障が出ているなら年齢のせいで終わらせない。ここは譲れません。

マグネシウムと脳を考える4ステップ

STEP 1:物忘れの背景を広く確かめる

最初に買うものは、サプリメントではありません。

いつから変化したのか。仕事中だけか、家でも起こるのか。睡眠時間は足りているか。いびきや無呼吸を指摘されたことはないか。気分の落ち込みはないか。新しく始めた薬はないか。

この聞き取りだけで、検査の向きがかなり変わります。

必要に応じて、CBC、血糖、HbA1c、腎機能、肝機能、甲状腺機能、ビタミンB12、葉酸、血清マグネシウムなどを確認します。

認知機能の変化が気になる場合には、MoCAやMMSEなどのスクリーニングを使うこともあります。これらは脳年齢を言い渡す検査ではありません。いま困っている機能を整理し、経過を比べるための道具です。

STEP 2:入ってくる量と失われる量を見比べる

マグネシウムは、食べた分がそのまま体に残るわけではありません。

慢性的な下痢や吸収不良があれば、食事量が足りていても吸収しにくくなります。2型糖尿病、アルコールの多飲、高齢も不足リスクと関係します。

薬では、PPIの長期使用、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬などが関係する場合があります。

だからといって、薬を勝手に止めるわけにはいきません。PPIにも利尿薬にも処方された理由があります。気になるときは、必要性、用量、使用期間、代替手段の有無を主治医と確認します。

食事、便通、服薬、腎機能を並べたうえで、必要ならRBC Mgや尿中Mgを補助的に使う。この順番なら、検査結果だけが独り歩きしにくくなります。

STEP 3:食品を土台にし、サプリは元素量で考える

日本人の食事摂取基準2025年版では、成人のマグネシウム推奨量は、年齢によって男性330〜380mg/日、女性280〜290mg/日です。

数字だけを見ると、毎日計算したくなるかもしれません。けれども、最初は食卓の景色を変えるほうが続きます。

白米の一部を玄米や雑穀に替える。味噌汁に豆腐と海藻を入れる。間食を無塩のナッツにする。納豆や豆類、緑の葉野菜を一品足す。

一度に全部は要りません。一つ変えるだけでも、マグネシウム以外の食物繊維や微量栄養素も一緒に増えます。観察研究で見えている食事の利点は、むしろこちらに近いはずです。

サプリメントを使う場合は、化合物全体の重さではなく、表示されている元素マグネシウム量を確認します。形態によって、溶けやすさ、便通への作用、胃腸への負担が異なります。

L-スレオン酸マグネシウムは、動物研究や小規模な人の研究で脳機能との関係が調べられています。研究中の選択肢ではありますが、認知症の予防薬でも治療薬でもありません。脳に届くという一言だけで全員に選ぶのは無理があります。

一般向けに週ごとの増量表を置かないのも、そのためです。必要量は、食事、便通、腎機能、併用薬によって変わります。

通常の食品以外から摂るマグネシウムの耐容上限量は、成人で350mg/日です。超えると下痢や腹痛が起こりやすくなります。腎機能が低下している場合は体内に蓄積し、高マグネシウム血症を起こす危険もあります。

多く飲むほど脳に届く、という計算にはなりません。

STEP 4:マグネシウムを脳の生活環境に戻す

マグネシウムだけを整えても、睡眠が4時間、血圧が高いまま、ほとんど歩かない生活なら、脳への負担は残ります。

運動は、血流、筋力、糖代謝、睡眠に働きかけます。食後の散歩から始めてもよいですし、週に数回、無理のない筋力トレーニングを加える方法もあります。

睡眠では、就寝時刻だけでなく、いびき、無呼吸、夜間頻尿、中途覚醒の理由を探します。朝起きたときから眠いなら、単なる夜更かしではないこともあります。

血圧、血糖、脂質は脳の血管と関係します。聴力、喫煙、飲酒、気分、社会的な交流も外せません。

こうして並べると、マグネシウムの存在感が薄くなったように見えるでしょうか。

むしろ逆です。

睡眠不足で甘いものが増え、血糖が乱れ、疲れて運動量が落ちる。食事が簡単なものに偏り、マグネシウムを含む食品も減る。そこでPPIや利尿薬、慢性の下痢が重なれば、不足リスクはさらに上がります。

マグネシウムは、この連鎖の中に置いたほうが理解しやすい。サプリメントの棚だけを見ていると、このつながりを見失います。

マグネシウムと脳の健康を考える4ステップ

まとめ

人の名前が出てこない。メールを何度も読み返す。以前より仕事に時間がかかる。

冒頭の変化に戻ると、最初の一手は脳用マグネシウムを注文することではありません。

まず、いつから何に困っているのかを整理する。睡眠、気分、甲状腺、B12、葉酸、貧血、血糖、薬、聴力を確認する。そのうえで、食事や便通、腎機能、服薬歴からマグネシウムの不足リスクを考えます。

押さえておきたい点は五つです。

– 2023年のANU研究が調べたのは、食事からのマグネシウム摂取量とMRI所見の関連です。脳内Mg濃度や認知症発症率ではありません

– 血清Mgは脳内Mgを直接測る検査ではありません

– 検査値は、食事、便通、服薬、腎機能、糖代謝、飲酒と合わせて読みます

– 食品を土台にし、サプリを使う場合は元素量、形態、腎機能、薬との関係を確認します

– 脳の健康には、睡眠、運動、血圧、血糖、聴力、気分まで含めた取り組みが必要です

物忘れは、意志の弱さではありません。けれども、マグネシウムだけに答えを背負わせるのも違います。

血液検査の正常値は、考えるのをやめる合図ではなく、次に何を確かめるかを決めるための出発点です。

気になる変化が続く場合や、生活に支障が出ている場合は、自己判断でサプリを増やす前に医療機関へご相談ください。

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この情報は医療・健康に関する情報提供を目的としたものです。

特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。

体調に関するご判断は必ず医療機関にご相談ください。

(文責)東京原宿クリニック院長 篠原岳

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